東京ユウトピア通信 ジャケット写真

『東京ユウトピア通信』

Album 2011.2.9 | Botanical House
  1. 君が泣くなら / If You Cry
  2. 冷ややかな情景 / Chilly Spectacle
  3. 遠い旅路 / Distant Journey
  4. 君とぼくとのさよならに / To Our Goodbye
  5. 心の窓辺に赤い花を飾って / Leave Red Flowers By The Window Of My Heart
  6. ムード・ロマンティカ / Mood Romantica
  7. 恋人と雨雲 / Lovers And Rain Clouds
Album Info

若いコロニイによる「音楽の自由解放区」

かつて、珈琲屋のひび割れた玻璃ごしに“摩天楼の衣擦れが舗道をひたすのを見た”のは、はっぴいえんどの松本隆だ。それから約40年後にLampは、“捻れた摩天楼を定刻通りの汽車が走る 君を乗せて”(「恋人と雨雲」)と歌う。また、“ぼんやりと思い出す窓の外は風の街”(「君が泣くなら」)とも歌っている。Lampは“街”を歌にする。しかも単なる目に映る「風景」だけではなく、色や光や温度を伴った「景色」「光景」「情景」、さらにはすでに消え去った街の「残像」や「残り香」までも表現する。その意味で、Lampは“はっぴいえんどの子供たち”と呼ぶに値する数少ないバンドの一つだ。また、この『東京ユウトピア通信』のアルバム・カヴァーを飾っているのは、鈴木翁二の絵。よって雑誌の『ガロ』繋がりで、『はっぴいえんど』を連想する人も少なくないだろう。

ただし、当然のことながら、Lampは、はっぴいえんどが切り拓いた音楽的土壌の上に、独自の音世界を構築している。現に一曲目の「空想夜間飛行」からして、音楽的には「ジェット機のサンバ」に乗って、アントニオ・カルロス・ジョビン国際空港に向かっているような曲だし、ミナスジェライス州の山々に響き渡る夢幻的なエコーがかすかに聞こえてくるような曲もある。また、前作『ランプ幻想』と比較するなら、リズム・アレンジがより複雑に組み立てられている曲が目につき、この点が大きな特徴だ。

Lampにとって『ランプ幻想』は、一つの到達点だったと思う。“はっぴいえんどの子供たち”としての彼らにとって。対して、『東京ユウトピア通信』は、Lampが新たな階段に足をかけ、頂上を目指し始めたことを示すアルバムである。70年代から築き上げられてきた“日本のシティ・ポップス”という伝統の階段。たとえば、キリンジが彼らに先駆けて上っている階段に。2010年夏にリリースされたEP『八月の詩情』は、この階段を駆け上がるための美しいフォームによる助走だったことが、これでよく分かった。

『東京ユウトピア通信』は、これまでにも増して洗練されている。が、それでいながら、今なおLampには、かつて存在した日本のバンドでいえば、シュガーベイブがそうだったように、あるいは現役のブラジルのアーティストでいえば、ロー・ボルジェスがそうであるように、どこかで成熟を拒んでいるような雰囲気が感じられる。この点がLampの真髄だと思うし、だからこそ僕は彼らの音楽が好きだ。

『東京ユウトピア通信』というタイトルに合わせる形で、あえて1953年に出版された北園克衛の詩集のタイトル『若いコロニイ』を引用して、この文章を締め括ることにしたい。3人の“若いコロニイ(colony)”は、新たな土地に鍬を入れ、肥沃な音楽畑を育て始めた。その畑は「ユウトピア」━━「音楽の自由解放区」とでも呼ぼう。

渡辺 亨

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